文春文庫 浅田次郎 著
物語は江戸時代末期と思われる。越後丹生山(にぶやま)藩三万石・松平和泉守信房(信房)はひょんなことから二十一歳で十三代藩主に就任。越後丹生山松平家は、その名の通り将軍家御家門のひとつで、もちろん家紋は三葉葵。
十二年前に突然十二代藩主が下屋敷に現れて親子の名乗りを上げられ丹生山藩藩主の四男(小四郎)となったのだ。後を継ぐ長男がポックリ逝ってしまい、次男(新次郎)は天衣無縫の馬鹿、三男(喜三郎)は生まれつき病弱国元を離れたことがない。こんなことで先ごろ小四郎は襲封をおえたばかりだ。
そんなある日にお城で老中・板倉周防守から呼び出しを受ける。内容は献上品目録にある銀馬代銀四十三匁三枚(約2両)が納められていないとのことだった。そして、老中から「御尊家には、金がない」とはっきり言われてしまう。
小四郎は家政の実態を明らかにすると「借金総額二十五万両・年間利息は三万両・歳入はたった一万両」すでに破綻状態の丹生山藩。どうにか親藩大名なので金主たちは目を瞑っている有様だった。嫡男はこの借金地獄を父から聞き、悩んで血を吐いて悶死したのだ。
近習で幼馴染みの磯貝平八郎・矢部貞吉を引き連れて、先代十二代藩主(ご隠居・百姓与作・茶人一狐斎・職人左前甚五郎・板前長七と役柄を演じて分けて暮らす)に会いに下屋敷へ行き、小四郎:「父上にお訊ねいたします。当家にはお金がないのですか」先代:「金はない。だからどうだと言うのだ」
先代は、この窮地をこの先返すべき金をビタ一文も返さず、世間の風評など念仏と聞き流し、ついに業を煮やした幕府から「松平和泉守、領地経営不行届きに付き改易」御沙汰を待てばよい。その日までのらりくらりとしながら現金を貯え、落城の折に家来衆と貯めた金銀を配分し、責を藩主・小四郎に押し付けて切腹させれば終わりと、恐ろしい計画を実行中だった。
勘定方に元水売りの比留間伝蔵を採用し、何も知らない小四郎達は謝金返済に立ち上がる。ここまではすごく良かったが・・・これから破茶滅茶。
新次郎の許嫁・お初の父・大番頭・小池越中守。貧乏神に七福神。育ての父・間垣作兵衛。ご領内豪商・仙藤双右衛門。異父兄・正心坊。両替商大黒屋丹生山店番頭・伊兵衛など登場人物は多く、貧乏神から七福神の登場の頃からページをめくる速度が極端に落ちて、本箱の片隅に上下巻共に置いていた。
それでも暇な時にチラチラページを捲るが一向に進まない。そんな時に「三河雑兵心得11巻」が発売されて一日で読了。この勢いで読み切ったが購入から約2ヶ月掛かってしまった。
浅田次郎先生の時代小説「壬生義士伝、輪違屋糸里、一刀斎夢録、赤猫異聞、一路、黒書院の六兵衛」などと同じく期待していたが・・今作品にはがっかりした。それでも6月に映画化されるがきっと観にいかないだろう。次作「流人道中記」に期待したい。